「ブックライターがいない」問題を解決するための新ビジネスは可能か?

「ライターがいない」ってどういうこと?

「ライターがいないよね」という話を、あちこちで見聞きします。

先日、以前お仕事をしたことのある某出版社からブックライティング業務のお問い合わせがありました。生憎すでにお引き受けしていた別案件と締切時期が重なっていたため、お断りをしました。しかし、それから2週間くらい後、もう一度同じ方から連絡があって、「どうしても他のブックライターが見つからないので、なんとか引き受けてもらえないか」と懇願されてしまったのです。

そこまで頼りにされてお断りするのは申し訳ないのですが、正直言って、私は原稿を書くスピードがそれほど速くありません。無理を承知で引き受けても、締切に大幅に遅れてかえってご迷惑をお掛けすることになるのは目に見えていたので、お断りせざるをえません。

しかし、せっかく2度もご連絡をいただいたのに、ただお断りするだけでは心苦しいものがあります。そこで、代わりに引き受けてくれる方がいないだろうかと、ツイッターで知り合いのライターさんに声を掛けたり、昔のつてをたどったりして、ようやく1人、この人なら適任だろうと思われる方に応じていただけることになり、ご紹介できました。
ほっとしましたが、「ライターがいない」というのは、ほんとなんだなあと実感したものです。

もちろん、ライターの数が減っているわけではないと思います。クラウドソーシング(ランサーズやクラウドワークス)を見れば、あふれるほどの人が登録をしています。しかし、きちんとした専門的知見と一定水準以上のライティング技術を持ち、しかも一定の予算とスケジュールの制約がある中で対応できるライターさんと、必要なときに出会うことが非常に難しい、つまり、ミスマッチが生じているのでしょう。

これは別に今にはじまったことではありません。昔からそうです。前にも書きましたが、技術が関与する業務では、高い技術の人ほど少なく、低い技術の人ほど数が多いピラミッド型の人口構成になるため、昔から優れたライターの数は相対的に少ないのです。

ただ、いまはクラウドソーシングなどでライターの数自体は増えたように見えるのに、きちんとした技術を持つライターがどうしてこんなに少ないのだろうということで、不思議に感じられる面が強くなったのでしょう。

クラウドソーシングで優れたブックライターを見つけることは、不可能に近い

ライターを必要とする業務にもいろいろありますが、ランサーズやクラウドワークスの登録者の中に、

  • 取材ベースで、一定の水準以上で書籍などの長い原稿を書けるライター(ブックライター)
  • 特定の分野に対するある程度の専門的な知識を持っていて、かつライティング能力も一定以上のライター

については、おそらくほとんどいないと思います。「絶対いない」とは断言できませんが、もしいたとしても、探すことが困難=探索コストが高すぎるのです。

クラウドソーシングでは、過去の実績における「星」の評価や、サイトが用意している認定制度などを参考にすることはほぼ無意味です。私自身、両サイトで100件以上の発注(ブックライティングではなく、短い記事)をしていますが、星が高評価で「認定」や「プロ」になっているライターさんに依頼して、驚くほど質の低い原稿が出てきたことが何度もあります。もちろん、いい原稿が上がってくることもあります。専門性が比較的問われず、かつ短い記事であれば優れたライターさんもいます。

問題は、質の低い原稿なのかそうじゃないのか、事前に予測がつかないという点です。3,000文字程度の短い原稿であれば、もし質が低かったとしてもこちらで手直しすることは可能ですし、コストは無駄になりますが、最悪、他の人に発注し直してもいいでしょう。しかしブックライティングの場合はそうもいきません。そのため、上記のような2タイプのライターを探すために、“運頼み”のクラウドソーシングはまったく使えないと考えたほうがいいでしょう。

では、他にマッチングの場があるかと言えば、これがないのですね。

そこで結局、昔ながらの人づてによる紹介を頼るか、費用は高くつきますが実績のある編集プロダクションに頼むくらいしか思いつきません。

ライターとマッチングするための新ビジネスは可能?

クラウドソーシングのような場でもなく、つてに頼るのでもなく、クライアントとライターの需要と供給をマッチングさせる場を提供するビジネスは、成立しないでしょうか?

イメージとしては、ヘッドハンティング会社のようなものが考えられます。ジャンルごと、専門ごとに、優秀なライターのリストを持っていて、必要に応じてアサインしてくれるみたいなビジネスです。もちろん、クラウドソーシングサイトと違って、なんらかの形で品質を担保もしてくれることが条件です。その代わり、原稿料から手数料を中抜き(ピンハネ)するのではなく、原稿料とは別枠で紹介手数料を申し受けます。

仕組み的には可能だと思いますが、問題は人材市場のヘッドハントと違って、市場が小さい上に案件ごとの単価が低いことです。そのため、人材市場の仕組みそのままでは、ビジネスとしては成立しないでしょう。なにかもう一工夫が必要です。しかし、そういうビジネスがあれば絶対に需要はあると思います。