ブックライターとゴーストライター

「ブックライター」と「ゴーストライター」はどう違うのでしょうか?

ブックライターもゴーストライターも、「著者に代わって書籍の原稿を書く」という、同じ内容の仕事をしています。つまり、両者の違いは、単なる「呼び方の違い」だといえます。

著者の名前以外に「執筆協力」「原稿協力」などの役割でライターの名前が書籍に記載(クレジット)される場合は、ブックライターと呼ばれることが多く、ライターの名前がまったく記載されない場合には、ゴーストライターと呼ばれることが比較的多いのですが、そういう傾向があるというだけで、厳密に区別されているわけではありません。

「ゴーストライター」と呼ばれる仕事は、古くからありました。「著者」となる人に取材をして話を聞き、その人に成り代わって、その人が世の中に伝えたい考えや経験を文章にまとめる仕事です。なぜそんな仕事があるのかといえば、「自分はこんなことを世の中に伝えたい」と思っているけれども、忙しくて原稿を書いている時間がない、あるいは、文章が苦手でうまく表現ができないということは、よくあるからです。世の中に広く伝える価値がある考えや経験を持っていることと、それを文章で適切に表現できることは、まったく別のことです。

しかし、せっかく素晴らしい考えや貴重な経験を持っている人がいるのに、文章を書くのが苦手であるために、それを本として残すことができないとしたら、もったいない話ですよね。そこで、文章作成を専門としているライターが、本人から話を聞き、代わって原稿を書くゴーストライターという仕事が必要とされたというわけです。

ゴーストライターの仕事は古くからありますが、その仕事に対して「ブックライター」という呼ばれ方がされるようになったのは最近(ここ10年くらい)です。

ゴーストライターは文字通りゴースト(幽霊)のように、影に隠れて表にははっきりと現れない存在でした。本のどこにも、ゴーストライターの名前は記載されません。あくまで、その著者が書いた本であるという体裁になっているのです。それに対して、「著者」とは別に、実際に原稿を作成したライターの名前が、「執筆協力」など名目で、本に記載(クレジット)されるケースが増えてきました。名前が出ているのに「ゴースト」というは、少し変です。とはいえ、もちろん著者でもありません。そこで、ブックライターという言葉が用いられるようになったのでしょう。有名なライターの上阪徹さんが『職業、ブックライター。 毎月1冊10万字書く私の方法』という本を出したことも、ブックライターという呼び方が広がるきっかけになったのだと思います。

また、ゴーストライターという呼称に対して、少し「裏仕事」的な悪いイメージを持つ人もいるため、イメージを良くしようという意図から、ブックライターという呼称が使われている面もあるでしょう。最近は、どちらかというと、ブックライターという名称が使われることが多くなっており、今後は、ブックライターという呼称が主流になっていくかもしれません。。

ざっくりいえば、著者に取材をして著者の代わりに書籍原稿を書く仕事で、ライターの名前がクレジットされる場合が「ブックライター」と呼ばれ、ライターの名前がでない場合が「ゴーストライター」と呼ばれることが多いと考えてよいと思います。ただ、これらは法律で決まっている呼称ではありませんので、ライターの名前がクレジットされない場合でも、ブックライターと呼んではいけないということはなく、区別はあいまいです。

著者の徳

ブックライターの中には、ブックライターとして(あるいは、企画、構成、取材、などとして)書籍にクレジット(記名)が入ることを重視している人もいるようです。

私は、自分が書いた記事や書籍に自分の名前がクレジットされるかどうかは、どちらでもいいと思っています。お客様が、出した方がいいと思われる場合は出していただいて結構ですし、そうではないと判断される場合は、もちろん出さないで結構です。名前を出してほしいという希望は特にありません。

別記事でも書きましたが、私はライターの仕事に”作家性”は必要なく、“職人性“だけがあればいいと考えています。とりわけ、著者の方の名前で出す書籍の場合は、ライターはゴーストのまま、存在を明らかにしないほうが、どちらかといえば良いのではないかと思います。

美しく整えられた庭に、庭師の名前はクレジットされていません。庭の美の本質は草木の徳であり、それで十分だからです。同様に、書籍の真善美の本質は著者の徳です。そこにライターの名前が入ることで、その徳を損なうことこそあれ、補うことはないように思われます。