記事制作で楽するためのライター探し(1)ライター業界の回転寿司・クラウドソーシング

「すごく美味しい寿司を食べたいから、スシローに行こう」といわれたら「ちょっと待て!」といいたくなるでしょう。別にスシローがまずいわけではないし、私もよく行きますが、回転寿司は「すごく美味しい寿司」を求めていく場所でないからです。それと同じように、「楽に記事制作をしたいからクラウドソーシングを使う」といわれたら、私は「ちょっと待て!」といいたくなります。クラウドソーシングは、必ずしも楽にライターを探せる場所ではないからです。

私自身、以前は書籍や雑誌の編集業務を中心にしており、その当時は腕のいいライターさんを探すのに苦労しました。正確にいうと、腕のいいライターさんはたくさんいるのですが、決められたテーマにくわしく、一定の予算と決められたスケジュールの中で引き受けてくれる腕のいいライターさんというのは、やはり非常に少なくなります。編集を担当する自分がよく知っている分野ならともかく、あまりくわしくない分野だと、ライターさんの腕を見極めるのも難しくなり、納品された記事をみて「こんなはずじゃなかった」と思ったことも、何度もありました。

そこで、記事を制作したい発注者が「どうすれば楽をできるのか」という観点から、ライター探しのヒント、みたいな話を書いてみたいと思います。今回は「クラウドワークス」や「ランサーズ」などのクラウドソーシングを主なテーマにします。

ライターの選び方は、寿司屋の選び方と、だいたい同じ

楽をするためのライターの選び方は、寿司屋の選び方と、だいたい同じです。つまり、どんな目的でライターを使いたいのか、そのための予算はいくらなのかを最初にしっかり想定しておくことがポイントです。

寿司屋には、銀座の高級店から、住宅街に昔からある町場の店、繁華街の回転寿司、配達専門店までさまざまなカテゴリーがあります。
また、寿司を食べるときには、
・大切な取引先の接待
・恋人の誕生日を祝うディナー
・小腹が空いときの手軽な食事
・ちょっとうまい肴をつまみながらの晩酌
などさまざまな目的があるでしょう。

そして、私たちは予算と目的に応じてどんなカテゴリーの店に行こうかと考え、その中からさらに具体的な店を決めます。取引先の接待で「スシロー」に行く人はいませんし、小腹が空いたので手軽になにか食べたいときに「すきやばし 次郎」を目指す人もいません。まあ別にそうしてもいいのですけど、そんなことをしたら要らぬ苦労が増えるだけで、ちっとも楽ではありませんよね。
寿司屋は、目的と予算に応じて探すのが楽ちん。ライターもそれと同じです。したがって、発注者側としては、
・発注の目的(記事のテーマ、求める品質、ライターに依頼したい業務範囲)
・予算
を明確にして、それに見合った場所で、見合ったライターを探すのが楽ちんの第一歩です。

ライター業が寿司屋と違うのは、基本的にBtoBの業務だということです。そのためライターの世界には「食べログ」のような口コミサイトも、「ミシュラン」のようなガイドブックもありません。目的と予算が明確になったとしても、それにマッチしたライターがどこにいるのかがわからなければ、発注しようがありません。そんなとき「とりあえず」使えるのがクラウドソーシングです。「とりあえず回転寿司にしておくか」みたいなものです。

回転寿司としてのクラウドソーシング

回転寿司に「ほっぺが落ちるほど感動する味」を求める人はいないでしょう。回転寿司は、気軽に明朗会計で、一応寿司の味になっているもの食べたいときに利用するカテゴリーであり、そもそも極上の味を求める場所ではないからです。

また、回転寿司では、値段は明朗ですが、味の方はネタによってけっこう当たり外れがあります。マグロは割とおいしいけれど、青魚はちょっと生臭くていまいちなど、よく行く店なら経験でわかりますが、はじめて入る店だと食べてみないとわからないので、ある程度ギャンブルになります。

ライター業界における回転寿司のような存在が「クラウドソーシング」です。回転寿司にスシローやくら寿司、その他多くのチェーン店があるように、クラウドソーシング業界にもクラウドワークス、ランサーズをはじめ、多くの業者がいます。特徴は、比較的安くて明朗会計なので気軽に使えることです。しかし、クラウドソーシングを使えば発注者が「楽ちん」になるかというと、必ずしもそうとはいえません。

寿司ネタの味は食べてみないとわからないのと同様、ライターの原稿も納品されてみないと品質はわかりません。 クラウドソーシングでは、ライターの質のバラツキが非常に大きく、原稿が納品されみたらたとても低い品質だったいうこともめずらしくありません。もちろん、回転寿司で意外なほど美味しいネタが出てくることがあるように、クラウドソーシングでも想像以上に良い品質の原稿を納品してくれる人もいます。しかし平均すれば、クラウドソーシングは回転寿司同様に、「低価格で、品質はさほど高くない」というカテゴリーになります。

どんな業界もそうでしょうが、高品質なアウトプットを提供できる業者は少数です。たとえばライターを原稿の質で「一流、二流、三流以下」と分けるなら、一流がもっとも少なく、三流以下がもっとも多い、ピラミッド型の人口構成になっています。銀座の一流寿司店より町場の寿司屋の方が多く、町場の寿司屋より回転寿司や宅配寿司の方が多いのと同じです。そして、クラウドソーシングでは、ライターの登録に際しては審査がないために、ピラミッドの底辺、つまりかなり低品質な原稿しか書けない三流以下のライター(あるいはライター希望者)がもっとも多く登録しています。そのため、平均した品質は低レベルになります。

クラウドソーシングには優秀なライターもいる

回転寿司に、銀座の一流店で修行した職人がいないように、 クラウドソーシングに一流どころのライターはいません。しかし、必ずしも三流以下の低スキルの人ばかりではありません。「そこそこいい品質のものを、わりと安い価格で提供している」ライターも多少はいます。回転寿司程度の値段で、街のおいしい寿司屋のカウンターで食べるくらいの寿司が食べられることがたまにある、という感じでしょうか。

それはなぜかというと、高い能力を持ちながら、地方在住だったり、子育てや介護などの事情があったりして、日中の外出や長時間の仕事が難しいためにクラウドソーシングからの受注に頼らざるをえないという人がいるからです。そういう人たちにとっては、クラウドソーシングは福音でしょう。お子さんが小さいので外で働くのは無理だけれど、家で少しでも仕事をしたいと考えている主婦などの中には、びっくりするくらい優秀な人もいます。もしそういうライターと出会えることができれば、発注者の方も幸運です。

クラウドソーシングでは、見えないコストに注意

「原稿の質が低くてもかまわない。それよりも、楽に、安い記事をたくさん集めたい」というニーズを持つ発注者もいるでしょう。そういう方には、ライター業界の回転寿司であるクラウドソーシングはぴったりのように思えます。低料金でたくさん食べられそうです。

しかし気をつけてほしいのは、単価が低い回転寿司でも「注文したけどまずくて食べられない皿」がたくさんあったら、結局高くつくということです。衛生管理がしっかりできないような店で寿司を食べると、食あたりになってしまい病院代がかかって高くつくかもしれません。つまり「安物買いの銭失い」です。

ライターの質が低いと、たとえば「まったく依頼の意図にそわない記事」「日本語になっていない文章」「コピペ」「そもそも原稿が納品されない」など、トラブルの発生可能性が高くなります。先日、ある人のツイッターのつぶやきに、クラウドソーシングで発注した人の3割くらいは納品してこないで音信不通になってしまう、とありました。 3割というのは少々盛ってるのではないかと思いますが、一定の割合でそういう人がいることは確かです。

すると、そのトラブルへの対応、再発注、何度もの修正依頼のやり取りなど、発注者側の手間が増えます。楽をするどころの話ではありません。そして発注者側にかかる手間と時間が増えるということは、つまりコスト増です。クラウドソーシングの利用にあたっては、表面の料金だけではなく、発注者側の時間や手間などの「見えないコスト」を必ず考えなければなりません。それを含めて考えると、たいして安くならないということもあり得ます。

私の経験上では、ライターがなかなか注文通りの原稿に仕上げてくれずに、「これなら、自分で書いた方が速いし安かったよ」と感じてしまうことも、よくある話です。そうならないためには、品質と予算は比例すると考えて、クラウドソーシングを使うにしても、最初からある程度の予算を用意するしかありません。

先に書いたように個別で見れば、価格と原稿の品質が必ずしも正比例しているわけではありません。回転寿司でも「赤字覚悟のサービス」で、特上のネタが出てくるときがあるでしょう。しかし、大局的・長期的に見れば、価格と品質は比例します。回転寿司の値段ですきやばし次郎の寿司は食べられないのですから、「スシローの予算ですきやばし次郎のお寿司を握ってくれるライターさん求む」みたいな募集をかけることは、そもそもナンセンスです。

「納品物の品質が低くてもいい」と割り切れるときだけ使う

ちなみに、発注者側の「見えないコスト」としては、上述の修正などのやり取りのコストの他に、探索コストがあります。いい店やおいしいネタを探すためには、食べ歩きをしなければならないのと同じく、クラウドソーシングで良いライターに出会うためには、トライ&エラーを繰り返し、時間と手間をかけて探すしかありません。クラウドソーシングは「石がとても多い玉石混交」なので、その中から、一定程度のレベルの玉を探し出すための探索コストは案外高くつきます。

さらに、コストにはクラウドソーシング業者に支払う手数料もあります。まとめると、クラウドソーシングでは、原稿料としてライターに支払うコスト以外に、

・質の低いライターに当たってしまったときの、発注者側の手間や時間のコスト
・腕のいいライターを探すための探索コスト
・クラウドワークスやランサーズなどの仲介業者に支払うコスト

がかかることになります。このことを理解していないと、クラウドソーシングの利用は「安物買いの銭失い」になる可能性が高くなります。総合してみると、クラウドソーシングは、決して「安くてそこそこ有能なライターに簡単に出会える場所」ではないということです。

運良く最初から有能なライターさんに巡り会えれば、クラウドソーシングでの発注は非常に有益です。しかしそれは運次第。私ならクラウドソーシングは「原稿が低品質でもいい」と、はっきり割り切れるときだけ使います。たとえば、納品された原稿をそのまま使うのではなく、あくまで素材程度の扱いにして、発注者サイドで手を入れて加工することが前提といったケースです。そういう用途であれば使える場面は多いと思います。しかし、記事に一定以上の品質を求めようとすると見えないコストが上がってしまい、割に合わなくなることが多くなります。

「プロ認定」も「ポートフォリオ」も、あまり当てにはならない

もちろん、探索コストなどの問題はクラウドソーシング業者も理解しており、独自に「プロ認定」などの制度を作ることで、対応を図ろうとしています。しかし、その「プロ認定」には何の保証もありません。業者はあくまでプラットフォーマーであり、品質を保証する役割をそもそもになっていないからです。「プロ認定」されたライターの作成した記事のレベルが低かったとしても、クラウドソーシング業者がなにか対応してくれるわけではありません。

また、クラウドソーシングに登録しているライターの多くは、「過去のポートフォリオ」を公開しています。これを100%信じてはいけません。「話半分」で見ておきましょう。うそのポートフォリオが多いという意味ではなく、公開された記事はライター本人以外の人(編集者、ディレクターなど)の手が加わっていることが普通なので、その記事の品質は必ずしもライターの実力がそのまま反映されているものではないためです。文章の質という面では、ある程度の目安にしかならないと考えた方がいいでしょう。

もちろん、たとえば有名な一流メディアで長い期間連載記事を書いていたという実績があれば、それはそのメディアの編集者のお眼鏡にかなっていたということですから、記事の内容というより、連載を続けていたという事実自体が信頼のエビデンスになります。しかし先に述べたように、残念ながらクラウドソーシングに、そういうライターはほとんどいません。

「テスト発注」で実力のあるライターは探せない

探索コストなどの見えないコストを削減するために、テスト発注(テストライティング)と称して、極端に低い単価で1回の発注を実施する発注者がいます。「テスト」という名前を使おうが使うまいが、もし納品された原稿に問題があれば、それ以後は発注しないのは当然です。つまり極端にいえば、1回1回の納品のすべてが「テスト」的に試されているのが、フリーランス(=外注業者)というものです。それなのにわざわざテストと称してるのは「通常より極端に低い単価にするよ」ということの言い訳である場合がほとんどです。さらには、クラウドソーシングの中には「テスト」しかない(=つまり極端に安い価格でしか発注しない)半ば詐欺的な発注者もよく見受けられます。

そのことは、経験あるプロのライターは当然理解・認識しています。そのため、実力のあるライターが低単価の「テスト」案件に応募することは、ほぼ絶対にありません。もし実力のあるライターを本当に探そうとしているなら、極端な低単価での「テスト発注」は絶対にやめた方がいいでしょう。無駄な手間が増えるだけではなく、発注者の評判を下げことにもつながります。クラウドソーシングの利用にあたっては、発注者側のレピュテーションリスクにも、十分注意を払うべきです。

まとめ

・クラウドソーシングで、質のいい原稿を楽に求めることはできない。

・クラウドソーシングでは、原稿料以外のコストが意外とかかり、予算をケチると「安物買いの銭失い」になることが多い。

・クラウドソーシング業者はプラットフォーマーであり、ライターや原稿の品質は保証してくれない。

・クラウドソーシングで腕のいいライターを見つけるには、トライ&エラーを繰り返しながら根気よく探すしかない。

・スシローはけっこうおいしい。