ライターに記事を発注する前に確認しておきたい、成功する記事制作の業務フロー

「ライターに記事の制作を頼みたいのだけど、何を、どうやって発注すればいいのか?」といった質問を受けることがたまにあります。

出版社や、コンテンツ作りを担当するWeb制作会社、広告代理店などは別として、メディア運営の経験がない一般の事業会社の方が、ライターに記事を発注する機会は少ないでしょう。そんな事業会社で、何らかの理由で記事制作が必要となったときに、広報部や総務部といった部署の方がライターを探して記事を発注しようにも、その発注の仕方がわからないことが普通です。そこで、多くの場合、広告代理店やWeb制作会社に「丸投げ」してしまいます。

広告代理店やWeb制作会社がかなり優秀であれば、丸投げでもよい記事ができることがありますが、必ずそうなるとは限りません。なぜなら、広告代理店やWeb制作会社へ依頼すると、営業担当者とやりとりをすることになりますが、その営業担当者が自分で記事を書くわけではないので、結局「伝言ゲーム」のようになってしまい、かゆいところに手が届かないというか、小回りが利かないというというか、そんな状況になることも、実際のところよくあります。また、広告代理店やWeb制作会社への依頼だと、フリーランスライターに直接依頼するより、どうしても割高になります。

そこで、フリーランスライターに依頼をしたことのない、企業のご担当者様向けに、成功する記事制作ための業務フローをまとめてみました。

なお、本稿では、原稿制作の前工程となる「ライターを探す、見つける」段階については触れておらず、依頼するライターが決まった後の具体的なプロセスを記載しています(ライターの探し方については、別記事で書いています)。また、原稿完成後の工程となる、Webページや紙面、誌面のレイアウト、DTP、印刷などのプロセスは含んでいません。原稿制作部分のプロセスのみである点にご留意ください。

成功する記事のためには制作プロセスの共通理解が重要

ライターが納品するプロダクト(書籍や記事、文章)は、お客様のなんらかの業務上の目的をかなえるための、業務用の「素材」あるいは「商材」ですが、基本的にお客様に発注いただいてから制作して完成品を納品する「受注生産」です。つまり、発注段階ではプロダクトが存在していません。

そのため、制作前の段階で正しいプロセスを踏まないと、お客様が考えていたプロダクト(記事)の想定と、制作されたプロダクトとのズレが生じやすくなります。すると、修正指示のやりとりをしなければならず、「ライターを使わずに自分で書いた方が早かった」などといったことにもなりかねませんし、最悪の場合、期初の業務上の目的が達成できなくなります。

そういった事態を防ぐために、制作プロセスについて、発注側のご担当者とライターとの間で共通理解を持つことが重要です。(なお、記述を簡潔にするために、以下では「記事」という言い方でまとめていますが、さまざまな文章によるプロダクト一般のことだとお考えください。)

成功する記事制作の9プロセス

一般的には、記事の制作は以下の9プロセスで進みます。

(1)業務課題の抽出、記事の目的の確認
(2)ターゲット、メッセージ、掲載メディアの確認
(3)全体構成(記事数)とテーマ、切り口、トーン&マナーなどの設定
(4)取材、調査の準備
(5)取材、調査の実施
(6)内容構成案の作成
(7)原稿執筆
(8)原稿修正
(9)校閲、校正

各項目について以下説明します。

(1)業務課題の抽出、記事の目的の確認

御社において業務上達成されるべき目的や課題を明確にし、その中で記事の果たす役割を規定することからスタートします。つまり、「なんのために記事を作るのか」ということを、事業戦略や業務プロセスのなかに位置付けて明確化しておくということです。

例えば、「会社のブランディング」なのか、「特定事業への集客(リード獲得)」なのか、「直接的な集客ではなくタッチポイントの設定」なのか、「リクルーティング」なのか、といったことです。

この段階は、当然ながら基本的に発注者側で考案することになります。必要に応じて、企画書などの資料をご用意いただいて、ライターに正確に伝えていただくことが重要です。この段階から、ライターが参加する場合もありますが、ライティング業務とは別の、企画業務としての発注と捉えられます。

(2)ターゲットおよびメッセージ、掲載メディアの確認

(1)を踏まえ、どのようなターゲットに対して、どんなメッセージを伝えるのかを定めます。目的にもよりますが、ターゲットはなるべく具体的に設定します。また、メッセージとは、読者に希望するアクションだともいえます。

掲載するメディアは、パンフレット・カタログ、小冊子、書籍、自社Webサイト、ランディングページ、オウンドメディア、SNSなど、各種あり、目的に応じて使い分けます。ひとつの記事ソースを加工しながら複数のメディアで利用することもあります。

この段階も、基本的に発注者側で決定する事項になります。

(3)全体構成(記事数)とテーマ、切り口、トーン&マナーなどの設定

伝えるべきメッセージを、読者やメディアに応じてより具体的に落とし込んだものが、記事のテーマです。たとえば、「コーヒーをたくさん飲んでほしい」というメッセージを伝える場合、「コーヒーが健康に与える影響」「豆の種類による味のちがい」「おいしい淹れ方」「面白いコーヒー抽出道具」「有名人のコーヒーの楽しみ方」など、さまざまな記事テーマが考えられます。

それを1記事で構成して伝えるのか、10記事で構成するのか、また、複数記事で構成する場合であれば、記事をまとめる「カテゴリー」(「コーヒーの歴史と文化」、「豆の種類と淹れ方」「道具」など)を設けるのか、といったことを決めるのが全体構成の策定です。書籍や雑誌でいえば、目次案の決定に近いものです。

切り口とは、著者の主観で語るのか、インタビュー形式か、体験中心か調査データ中心か、批判的に取り上げるのか、肯定的に取り上げるのか、といった点です。また、トーン&マナーとは、親しみやすくわかりやすい感じか、固い論説調か、敬体か、常態かといった点です。

この段階も、基本的に発注者側のディレクターや編集者の担当業務となります。必要に応じて、ライターが関与してアイディアを助言をする場合もありますが、その場合は、ディレクション業務、あるいは編集業務として、ライティング業務とは別の発注カテゴリーになることが普通です。

(4)取材、調査の準備

記事を作成するにあたって、必要な素材を想定し、準備します。具体的には、取材をする人物や団体、使用する資料などの調査などです。取材が必要な場合、取材趣意書や取材質問項目を準備し、取材の申し込みやアポイントなどの段取りを行います。

場合によっては、取材前に「(6)記事タイトル、内容構成案の作成」を済ませておき、そこに合致するように取材を進める場合もあります。

この段階では、発注者側とライターとが打ち合わせをしながら進めます。取材趣意書等の作成や取材申し込みなどの作業は、お客様の方で行う場合もあれば、ライターが行う場合もあり、ケースバイケースです。

(5)取材、調査の実施

取材や資料調査を実施します。特に重要なのが取材です。取材は、単に「話を聞くこと」「資料を探すこと」ではありません。記事の枠組みや論理展開を仮説として設定し、記事の構成を意識しながら、取材対象者の特徴を明確化し時期としてどのように表現していくかを定義していくプロセスであり、相応の準備と高度な技術が必要です。

取材はライターが行いますが、発注側の担当者が同行参加することもあります。

(6)記事タイトル、内容構成案の作成

取材や調査によって集められた素材をもとにして、(3)で決めていた全体構成の中に、どう落とし込んでいくかを決めます。個々の記事タイトル、記事構成(小見出し)にするのかを決めていきます。取材で得られた素材によっては、(3)で決定していた全体構成や、テーマ、切り口などを変更する場合もあります。また、(4)取材、調査の準備の前に、仮の記事タイトルを決めておくこともあります。

この段階は、基本的にライターの業務となります。

(7)原稿執筆

文字原稿を書きます。必要に応じて図版原稿を作成します。当然ですが、ライターが担当します。
なお、(1)の段階と結びついたマーケティング戦略から、いわゆるSEO対策として必要なキーワードを記事へ入れ込む必要がある場合、記事執筆の前に、お客様よりご指示をいただきます。ちなみに、近年では単純なキーワード数やキーワード位置によるSEO対策は効果が薄れており、情報として価値が高い記事内容を掲載することのほうが重要だといわれています。

(注)「図解」原稿について

なお、文字原稿に加えて、必要に応じて図表原稿もライターが作成します。ワードの作表機能で作成できるような簡単な表であれば、文字原稿の一部と捉えられるでしょう。

ただし「図解」の作成は、文字原稿とは一定別の作業と捉えていただいたほうがいいでしょう。この時に注意していただきたいのは、「図解」とは、概念の構造や関係を図式化(モデル化)したものだということです。そのため、図解にはそれなりに高度な作成技術が必要となります。

よく「図解」と称して、単なる「アイキャッチ画像」や「イラスト付きの箇条書き」が示されている場合がありますが、それは「図解」ではありません。図解と、アイキャッチ画像やイラスト付きの箇条書きとの区別は、十分に注意なさってください。

(8)原稿修正

完成した原稿に対して、お客様が内容のチェックを行い、必要に応じてライターが修正や追加を行います。軽微な誤字、脱字などの修正の場合は、ライターに戻さずにお客様自身で修正をしていただく場合もあります。
修正を依頼する場合は、「なぜ修正をするのか」「どのような方向に修正するのか」という意図と方向性を明確にすることが重要です。それがないと、ライターが修正の方向性を間違えしまい、再修正となることもあります。

発注者側からの指示を受け、ライターが担当します。

(9)校閲、校正

校閲と校正は似た言葉ですが、厳密にいえば異なります。「校閲」とは書かれている内容の正しさを確認することであり、「校正」とは文章表現や文字づかいの正しさを確認することです。これらは、原稿執筆とは異なるジャンルの専門業務です。ライター側でも内容チェックや、最低限の誤字、脱字のチェックなどは行っていますが、より完成度の高いチェックが必要な場合は、専門の校閲者・校正者(校正専門会社)による確認が必要です。とりわけ、印刷物の場合、作成後の修正は難しいため、可能な限り専門校正者のチェックを受けることを、おすすめします。

ライター、専門の校閲者・校正者、お客様がそれぞれ担当します。