作家とライターの違いってなに?から考えるライター業務の本質

本記事は、ライターへの業務発注を考えているお客様(クライアント様)に向けた書かれたものです

ライターというのがどういう仕事で、それがどのようにクライアント様の業務に役立つのかをご理解いただくことが本稿の目的です。そのヒントとして、よく混同されて誤解されることが多い「作家」と「ライター」の違いを切り口にして考えていきます。

言うまでもないことですが、作家業務、ライター業務についての考え方は、あくまで当方の私見であることをお断りしておきます。

作家とライターの違いは、執筆の動機の発生場所

作家も、ライターも文章を書く仕事です。外から見れば似たような仕事なので、作家とライターを混同する人もいます。また、中には作家とライターを兼業している人もいます。ライターとか作家というのは人間の分類として使われることもありますが、正しくは職業の分類なので、作家としての仕事が中心の人がが、たまにはライターの仕事も請け負うとか、その逆のこともあるでしょう。しかし、それぞれの仕事の本質を考えると、両者には明確な違いがあります。

その違いを一言でいえば、「文章を書く動機が、内発的なものか、外発的なものか」ということです。言い換えれば「自分が書きたいものを書くのか、他人が望むものを書くのか」の違いです。

作家というのは、小説家、評論家、エッセイスト、詩人、ジャーナリストなど、主に創作的・文芸的、あるいは報道的な文章を書く仕事です。作家が書いた文章は「作品」と呼ばれます。作家が作品を書くのは、自分がそれを書きたいからという内発的な動機から生じるものです。

もちろん、作家というのは職業ですから、生活の糧を得るためという目的もあります。また、テーマの大きなくくりについては、編集者などから依頼やアドバイスをもらうこともあるでしょう。「◯◯をテーマにした作品を書いて下さい」という具合です。しかし、最終的に「なにをテーマにするのか」あるいは、同じテーマを扱うにしても、それを「肯定的に扱うのか、否定的に扱うのか、どのように視点と切り口で書くのか」は、作家が自分で決めることに変わりはありません。これがつまり、動機が内発的だということです。

ですから、作家は注文がなくても作品を書くということがあります。自分が面白い、興味ある、だれかに伝えたいと思ったものを書く、つまり自分のために書くのが作家だからです。

そしてその「作品」が自立的な価値を持つ、つまり作品が作品であることによって求められることも、作家という仕事の本質を表しています。

ライターは「作品」を書かない

一方、職業としてのライターは、自分が書きたいから書くわけではありません。あくまでお客様から注文を受けて、お客様が欲している文章を書きます。「なにをテーマにして、どのように書くのか」は、ライターの内発的な動機にもとづいて決められるものではなく、お客様の依頼内容によって決められるものです。

そのため、注文を受けていないのにライターが仕事で文章を書くということは、通常あり得ません。ライターは、あくまで依頼者のためという動機で書くからです。一般的に用いられる生産形態の分類でいうなら、作家は見込生産も受注生産も可能であるけれど、ライターは受注生産しかしない、ということです。

ライターが受注生産だとすると、その発注者であるお客様の発注目的が重要になります。「お客様が本当に求めているものはなにか」ということです。この点が、ライター側にも、お客様側にも誤解が生じやすいポイントですが、お客様にとっての真の目的は、ライターの書く文章そのものではないはずです。文章そのものが目的、つまり「文章自体を読んで楽しんだり、なにかを考えたりしたい」のであれば、それは作家に対して発注する業務となるでしょう。

ライターに対して発注をする場合、その文章は、お客様が抱えている何らかの問題を解決したり、課題を達成するための「手段」として必要とされます。お客様は、ライターが書いた「文章そのもの」が欲しいわけではありません。

よくマーケティングの世界で、ドリルを買う人はドリルが欲しいのではなく、ドリルによってあけることができる「穴」がほしいのだ、というたとえ話が用いられます。ライターの書く文章がドリル、お客様がライターに依頼する目的が「穴」です。

作家が書く「作品」は、作品そのものに自立的な価値があると述べましたが、ライターが書く文章は、依頼者の目的を実現することによってはじめて価値が達成されます。その意味で「作品」でありません。この点も、作家とライターの違いです。作家には作品=文章そのものが求められます。しかし、ライターには文章そのものが求められているわけではありません。ライターは「作品」を書かないのです。

ライターの提供商品は文章ではなく、お客様の目的の実現

ライターがお客様に提供する「商品」は、もちろん一義的には納品した文章そのものです。しかし、それは目に見える仕事の表層部分だけです。ライター業務の本質は、文章という手段によって、お客様が抱える問題の解決や課題の達成などの手助けすること、目的実現のサポートをすることこそライターが提供している商品であり、価値の本質であると、私は考えています。

したがって、読者をうならせるような上手な文章を書いたり、バズるような面白い記事を作ったりしても、それによってお客様の目的がかなえられないのであれば、依頼者にとっては、価値のない記事だということになります。たとえば、高齢者の自社へのエンゲージメントを高めることを目的として発注された記事が、若年層の間でバズったとしても、目的は達成されないということです。

また、お客様の目的実現のために、よりよい記事テーマやスタイルの設定が考えられるなら、それを積極的に提案するのもライター業務の重要な業務になります。「御社の目的がこれであるなら、この記事テーマよりもこちらの記事テーマのほうがよいのではないでしょうか」と企画テーマの変更を提案することは、めずらしくありません。ライターの業務の本質が、お客様の目的を実現することだという点を理解していれば、当然のことでしょう。

わたしのWebサイトの業務説明などでは、「目的をかなえるためのライティング」「課題達成のための文章」というような文言をしばしば用いています。しかし、これまでを読んでいただければご理解いただけるように、ライターというのはすべからくなんらかの課題達成を目的にして文章を書くべき仕事なのですから、これは本来は言うまでもないことです。

では、なぜわざわざそれを書いているのかというと、ライターの仕事の本質が、世の中ではあまり理解されていないように思われるからです。

ライターの業務について、「上手な文章を書く仕事」「面白い記事を考える仕事」「取材をして人の話を聞き出す仕事」、そんな風に捉えられることがあります。もちろん、それらはそれぞれライター業務の重要な部分的要素であり、間違いではありません。しかし、ライターという仕事の中核となるのは、あくまで「文章によってお客様の目的をかなえること」であり、ライターが書く文章はそのための手段でしかないという点は強調しておきたいと思います。

お客様がライターを選ぶ際には、上記を踏まえた上で、「自社にとっての目的をかなえるための提案をし、それを実行してくれるのか」という観点を持つとよいでしょう。